🌸戦国ファンタジー第11話

戦国ファンタジー
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三河帰還 ― 女たちの理と束ねの剣 ―

三河の空は、やさしい灰色だった。

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戦の煙が消えて久しいのに、どこか胸を締めつける匂いがまだ残っている。

風に混じる花の香りが、環の頬をかすめた。

束ねの剣を背に、彼女は静かに丘を降りる。

見渡せば、かつての戦場に小さな畑ができていた。

子どもたちの笑い声、鍬の音、井戸の水音――

それらすべてが「戦が終わった証」だった。

「……もう、剣はいらないね。」

呟いた声は風に消え、

遠くで焚かれる煙の匂いが、安堵のように漂っていた。

一、朝のぬくもりと湯気の理

「おはようございます、環さま。」

障子の向こうから服部半蔵の声。

彼女が差し出す湯呑みには、湯気とともに味噌の香りが立つ。

「忠勝さまが、井戸の水を新しくされたそうです。」

「……あの人は相変わらず働き者だね。」

環が笑うと、半蔵の表情がわずかに緩む。

台所の奥では、本多忠勝が桶を抱え、汗を拭っていた。

「ふぅ……民の水は、戦より重い。」

「でも、その重みこそが理ですよ。」と半蔵が静かに言う。

かつて剣で守っていたものを、

今は手と心で守る――

それが、彼女たちの新しい戦いだった。

二、昼の風 ― 剣を交わさぬ稽古

昼下がりの陽が庭に落ちる。

佐々木小次郎と松平信康が木刀を構えて向かい合う。

だが、剣は交わらない。

風の流れに合わせ、呼吸と姿勢だけが動く。

「……斬らぬ剣。それが理か。」信康が呟く。

「はい。剣は人を守るためにある。

 敵を倒すためではなく、悲しみを止めるために。」

環は縁側に座り、茶を啜りながらその光景を見つめていた。

剣の音がしない庭。

それがどれほど尊いことか、胸が知っていた。

隣で光の珠を弄ぶ天草四郎時貞が、穏やかに微笑む。

「未来でも、この風は吹いているのかな?」

「理が続く限り、風も止まらない。」

二人の視線が空に重なる。

春と秋の間のような、やわらかい風が流れていった。

三、夕暮れの食卓 ― 笑いと香りの理

夕陽が落ちるころ、庭の焚火に火が灯る。

半蔵が鍋をかき混ぜ、忠勝が味見をして首をかしげた。

「……塩が足りん。」

「理も塩も、足りぬくらいがちょうどいいのですよ。」

思わず笑いが起こる。

濃姫を思わせる旧織田の女武将が、

「三河の味は優しいね。」と箸を運ぶ。

「優しさは弱さじゃない。」

環の声に、火の粉がはじけた。

「戦で奪ったものを、今度は守る。それが理の巡り。」

誰もがうなずいた。

笑い声と、土の香りと、味噌の湯気。

それらが織りなす日常の理。

戦を超えた者だけが知る「強さ」が、そこにあった。

四、夜の光 ― クロノスの導き

夜。

環は庭に出て、静かに月を見上げていた。

束ねの剣が淡く光り、その刃の中に星のような光粒が流れている。

「戦は、本当に終わったのかな……?」

時貞が呟く。

環は剣に手を添え、微笑んだ。

「終わった。けれど、理の旅はまだ続く。」

その瞬間、クロノスの声が風に溶けた。

『束ねの剣が光を取り戻す時、理は再び巡る。

 戦の理は終わり、今は生の理が始まる。

 この地の笑いが、次の理を呼ぶだろう。』

環の瞳に月が映る。

その光は、まるで未来への約束のように輝いていた。

終章 一言

「誰かのために剣を抜くのではなく、

 誰かと笑うために手を伸ばせるように。」

焚火の残り火が、夜風に溶けていく。

明日もまた、三河に光が満ちる――。

✨クロノス予告

― 理は北へ、風とともに ―

三河の静寂はやがて雪へと変わる。

束ねの理を継ぐ者たちは、新たな光を求め北陸へ。

そこに現れる“放浪の剣士”――

彼の理は、誰よりも孤独で、誰よりも澄んでいた。

🌙次回予告

第12話「北陸編 ― 理を求めし影 ―」

雪に包まれた地で、環たちは新たな理を探す。

道を遮る吹雪の中、名もなき剣士が姿を現す――

その出会いが、すべての理を揺るがすことを、まだ誰も知らない。

【戦国ファンタジー】第12話 北陸編 ― 謙信と兼続、理の試練へ

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