ドラクエ2という物語は、表面上の目的はシンプルだ。「ハーゴンを倒す」。だが実際にプレイしてみると、その過程には多くの伏線や存在理由が散りばめられていて、ただの“冒険”では収まらない構造になっている。特に、船を手に入れた後の展開は世界が一気に広がり、ロトシリーズ全体と深くつながっていく重要な段階だ。今回の記事はその中でも、ラタドームで起きる出来事、にじのしずくの役割、竜王のひ孫の存在、そして妖精たちとの出会いまでをまとめ、ドラクエ2の“旅の本質”を理解しやすいように丁寧に書き起こした。
船を受け取り、広大な海へ出た三人――ローレシア、サマルトリア、ムーンブルックは、まずロトの原点であるラタドームを目指す。ラタドームといえば、ドラクエ1で勇者が初めて旅立つ地。いわばロトシリーズの象徴でもある。そんな聖地へ向かうというだけで、プレイヤーは自然と期待が高まる。そして到着すると、不思議な緊張感が城全体に漂っている。
ラタドームの大臣は慌ただしく動き回っており、こちらの姿を見るなり「ムーンブルック王女は試合に参加されるのですか?」と言ってくる。試合? そんな話はムーンブルック側には伝わっていない。そもそもムーンブルック王女は先の戦乱で亡くなっており、その“影武者イベント”のようなものを大臣が勝手に進めているのだとすぐにわかる。
このあたりの流れはドラクエ2特有の「世界が混乱している」描写で、大臣でさえ敵の偽情報に振り回されている。それが今の世界情勢の厳しさでもあり、王国間の情報が断絶している“戦乱の時代”の象徴ともいえる。
大臣が勝手に話を続けようとしたその時、奥から静かにラタドーム王が現れる。王は大臣を制し、小さく首を振るだけでその場の空気が凍るほどの威厳を放つ。王は三人をじっと見つめ、静かに言う。
「そなたらには……別の使命がある。」
その言葉は重い。大臣が話していたような“お祭り的な試合”ではなく、もっと根本的で、もっと深い意図があるのだと感じさせる。王に導かれるまま、三人はラタドーム城の屋上へ向かった。
屋上は強い海風が吹き抜ける場所で、水平線が遠くまで広がっている。そこで王は懐に手を入れ、ゆっくりと透明な輝きを放つ小さな雫を取り出した。
「これは“にじのしずく”。
この世界を渡るために必要なものだ。
そなたらにこれを託す。」
にじのしずくは、ドラクエ2を象徴する重要アイテムだ。大海原を越え、ハーゴンの神殿へ渡るためには絶対に必要な存在であり、ロトの血筋にしか託せない特別な宝。王がこのしずくを渡す場面は、ドラクエ2の中でも特に象徴的な瞬間で、物語の方向性が“世界救済”という次元にシフトする。
三人はそのしずくを丁寧に受け取り、次に向かうべき場所として示されたのが、ラタドーム城の地下に隠された“竜王のひ孫”。ドラクエ1でロトの勇者と激闘を繰り広げた竜王――その末裔がなぜここにいるのか。疑問を抱きつつも地下の階段を降りていく。
階段を下りるごとに空気が冷たくなっていき、小さな炎が揺れている薄暗い部屋へとたどり着いた。そこには、一人の青年が静かに佇んでいた。竜族特有の鋭い眼差しを持ち、どこか人間離れした気配を漂わせながらも、敵意はまったく感じられない。
彼はにじのしずくを持つ三人を一目見ると、軽くうなずいた。
「そのしずく……ラタドーム王に認められた証だな。」
そして次に、核心に迫る言葉を口にする。
「私は“紋章”の話をする役目ではない。
だが、雨のほこらが危険な状態だ。
妖精たちが襲われている。
私が行けば……力が強すぎて、ほこらを壊してしまう。」
この言葉が示すのは、竜王の末裔が抱える宿命。
“強すぎるがゆえに守れない”
そんな矛盾を抱えているのだ。竜族の力は魔物にも匹敵する。だからこそ、力を制御できる人間である三人が動く必要がある――それが竜王のひ孫の願いだった。
彼は一つだけ、静かに頼んでくる。
「妖精たちを助けてやってほしい。
あのほこらは……壊れてはいけない場所だ。」
ここでにじのしずくの意味が再び浮かび上がる。竜王の末裔は、ロトの血筋以外には“真実”を語れない。しずくを持つ者が来たときだけ、彼は言葉を交わせる。これはロトの物語が何世代も続く中で定められた、世界の理なのだろう。
竜王のひ孫に背中を押された三人は、言われたとおり雨のほこらへ向かう。外見は小さな祠だが、中に入ると複雑な階層になっており、妖精が逃げ惑いながら魔物に襲われている。
妖精たちはとても小さな存在で、魔物の攻撃を避けるのがやっとの状態。三人は道を進みながら妖精たちを助け、幾度も戦闘をくぐり抜ける。ほこら内部は独特な魔力が満ちており、妖精が住む場所特有の柔らかい光が揺れている。それが逆に魔物に狙われやすい原因にもなっていた。
途中、妖精が「上へ……上の階へ……長が……」と震える声で助けを求める姿を見ると、このほこらがただの場所ではなく、世界のバランスを保つ大切な場所であることが伝わる。
戦いを進め、ついにほこらの頂上へたどり着く。そこには小さな光の粒が舞う空間が広がっており、妖精の長が現れた。
「助けてくれてありがとう……。
あなたたちなら……紋章を見つけられます。
世界を救う旅の、“次の扉”が開かれました。」
ここでようやく“紋章”という言葉が、本格的に前へ出てくる。竜王のひ孫が語らなかった理由も、この瞬間に理解できる。
竜族は紋章の物語に直接関与してはいけない――
それが世界の理であり、竜族がロトに敗れたあの日から続く“静かな約束”なのだ。
妖精たちを救い出し、三人は大きな経験を積んだ。それは単なる戦闘ではなく、“世界の構造を理解するための試練”だった。ここから先は紋章集め。しかし、ただのアイテム集めではなく、各地の歴史、王族の因縁、魔物の影、ロトの血の宿命――すべてが絡み合う“本編の深層”へと突入していく段階になる。
この雨のほこらの出来事は、物語の中でも特に重要なワンステップであり、ここを越えた者だけがロト三勇者として世界の核心へ迫る資格を持つ。
そして次は、三勇者に託された大きな使命。
五つの紋章を探し出す旅。
世界樹、ローレシアの秘密、サマルトリアの試練、ムーンブルックの孤独。
そしてハーゴンの野望、シドーの気配。
ドラクエ2は、ここから一気に“本当の物語”が動き始める。

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