三河の空は鉛色に曇り、湿った風が小城を覆っていた。
今川義元の大軍が迫り、信康軍わずか三千は籠城を余儀なくされている。
兵たちの顔は土のように青ざめ、震える槍先に恐怖と疲弊がにじんでいた。
環は胸の奥の震えを押し殺し、声を張り上げる。
「退くな! 三河を護るのは“理”だ!」
光秀は板図を冷静に見つめ、低く告げた。
「補給線を狙う策も見抜かれました。今川は侮れませぬ」
蘭丸は傷を負った身で槍を構え、血走った目を見せる。
「今こそ突撃を!」
だが環はその腕を掴み、首を振った。
「力ではなく理で勝つ。命を散らすな」
濃姫が唇に微笑を浮かべる。
「義元は飾りにすぎぬ。その背後で、黒き影が蠢いている」
やがて包囲の太鼓が轟き、義元軍が焙烙玉を構えた。火攻めの合図だ。
環は目を閉じ、祖母から授かった小さなお守りを握りしめる。熱が走り、耳に声が響いた。
――歴史は試練を課す。選べ、環。
環は叫ぶ。
「藁を湿らせろ! 風の道を切れ! 敵の火を逆に返すんだ!」
兵たちが動き、水桶が運ばれ、藁は黒く濡れる。
やがて火矢が闇を裂き、焙烙玉が投げ込まれた。
だが湿った藁は燃えず、逆に風が炎を敵陣へと吹き返した。
義元軍に混乱が走る。炎に追われ馬が暴れ、兵の叫びが響く。
「今です!」
信康が剣を抜き放ち、声を張り上げた。
「三河を護れ! 理と光で勝ち取れ!」
乱戦の中、義元は護衛を失い、孤立する。
「まさか…余がここで……」
刃が閃き、義元の叫びが途絶える。戦場は嘘のように静まり返った。
勝利の叫びが響き渡る。兵の眼に光が戻る。
環は汗に濡れた頬を拭い、低く呟いた。
「勝ったのではない。生き延びただけだ…」
だがその言葉とは裏腹に、信康軍の名は三河一円に轟き渡る。
夜明け、血の匂いの中でクロノスの声が降った。
「一本の糸が断たれた。だが次に待つは母との因縁――」
🌸 次回予告
「武田の虎、信玄が迫る。
環は未来の薬で救うのか、それとも――。
運命の糸は、三河から川中島へと繋がっていく」
🕰️ 時間予告
「救いは新たな歪みを呼ぶ。
女将軍たちの宿命が、歴史をさらに揺らす」
🎴第2話 画像用メモ
舞台:夕暮れの戦場前、作戦前の静けさ。 登場:竹中半兵衛(知略的で穏やか)、服部(影の忍装束)、忠勝(鎧の一部のみ装着、守護の雰囲気)。 雰囲気:光が差し込む夕方のトーン。 構図:環を中心に3人が円を組んで話す/竹中が地図を広げ、服部が外を警戒。 トーン:知略と絆、戦の前の静けさ。

