朝、少し冷たい風が窓から入ってきた。
10月の終わりという言葉がようやく実感に変わる。
季節の変わり目は、どうしてこんなにも静かで優しいのだろう。
今日は退職届と制服をまとめて郵便局へ出しに行く日だった。
封筒を手にして外へ出ると、空が高く澄んでいた。
この数か月の間に積み重ねてきた想いが、
風の中で少しずつ溶けていくように感じた。
ポストへ封筒を入れるまでの数歩が、
やけに長く感じられたのは、きっと心の整理が追いついていなかったからだ。
退職という言葉は、
ただ仕事を辞めるという意味だけではない。
それまでの時間や関係、責任、そして少しの悔しさ。
いろんな感情が折り重なって、
ひとつの「手放し」になる。
制服を入れた袋を手放した瞬間、
肩の力が抜けたような感覚と同時に、
胸の奥に小さな静けさが訪れた。
何かを終えることは、いつだって少し痛みを伴う。
けれどその痛みは、次の始まりのための“余白”でもある。
午後は家に戻って、
ブログの下書きを整理した。
記事のスラッグや抜粋、カテゴリを整えながら、
ひとつひとつの言葉に向き合う。
ここ数日は戦国ファンタジーの構成も進み、
新しい物語と現実の切り替えが自然にできるようになってきた。
WordPressの画面の中で、
「カテゴリー:日記・ライフログ」
「タグ:秋、退職、環」
と入力する手が、なぜか少し丁寧になっていた。
どんな記事も、
その日の心が映っていると思う。
ふと、これまでの記事を読み返した。
笑っている日も、疲れている日も、
どれも自分そのものだった。
あのとき迷っていた感情も、
今では懐かしい。
あの迷いがあったから、
今こうして前を向けているのかもしれない。
夕方になると、
窓の外が少しだけオレンジ色に染まった。
通りを歩く人たちの姿がどこか穏やかで、
季節が確実に進んでいることを感じた。
退職届を出したあとの日常は、
想像よりも静かだった。
誰かに褒められるわけでも、
何か劇的な変化があるわけでもない。
それでも“今日という日”を丁寧に過ごせたことが、
何よりのご褒美に感じた。
夜は少しだけコーヒーを淹れて、
机の上のノートを開いた。
ページの端に書いた一言、
「焦らず、信じて、整える。」
それが今の私の小さな合言葉になっている。
過去にしがみつかず、
未来を急ぎすぎず、
ただ“今”を整える。
そんな時間を持てたことが、
何よりの進歩なのかもしれない。
退職という節目を迎えた今日。
一見、大きな出来事のようでいて、
実際には「いつもの日常」の延長線にある。
けれどその延長の中にこそ、
静かな成長がある。
明日はもう、11月。
季節が変わるように、心も少しずつ形を変えていく。
この静けさが次の始まりの前触れであることを、
私はもう知っている。
🌸一言
― 何もない日こそ、心が満たされている証。 ―
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