🔔 天草四郎時貞 ― 武器取り・第三夜(契約直前)
夜は、二度と同じ顔を見せない。
それは、天草四郎時貞が最もよく知っていることだった。
第一夜で“呼ばれ”、
第二夜で“量られ”、
そして今――第三夜。
これは選別ではない。
これは確認だ。
武器が、最後に問う。
それでも、お前は立つのかと。
🌑 密度の違う夜
空は暗い。
だが、闇の質が違う。
音が遠い。
匂いが薄い。
身体の輪郭だけが、やけに鮮明だ。
天草四郎時貞は歩く。
歩いているというより、進ませられている。
拒否は、もう選択肢にない。
「……ここまで来たか」
独り言は、境界に吸われて消えた。
🕯️ 境は、閉じる
足元が消える。
前後左右の感覚が曖昧になる。
武器取りの境は、これまでで最も狭い。
逃げ道はない。
戻る道もない。
ここは、契約の手前。
天草四郎時貞は、立ち止まった。
🔮 最後の問いは、静かだ
声はない。
圧もない。
問いは、ただ“在る”。
❓ 「汝は、己を捨てられるか」
天草四郎時貞は、すぐに答えなかった。
“己を捨てる”。
それは自己犠牲ではない。
英雄の美談でもない。
名前を失うこと。
祈りを奪われること。
記憶を消されること。
武器は、それを要求している。
🌌 名前の重さ
天草四郎時貞は、自分の名を思い浮かべる。
それは、ただの記号ではない。
祈りと、怒りと、願いの集合体。
その名を捨てれば、
人の側には戻れない。
「……捨てられない」
その言葉に、境は動じない。
問いは続く。
❓ 「では、名を超えられるか」
彼女は、ゆっくりと息を吐いた。
「……それなら、できる」
⚖️ 己を超えるということ
「私は、私であり続ける」
「だが――」
一歩、前へ。
「私だけのためには、立たない」
それは否定ではない。
放棄でもない。
拡張だ。
「名があるから立つんじゃない」
「呼ばれなくても、立つ」
🔔 武器が、近づく
闇の奥で、輪郭がはっきりする。
長く、細い。
叩くためでも、斬るためでもない。
――ロッド。
だが、それはまだ“武器”ではない。
意思を宿していない。
武器は、最後に問う。
🔥 意思の確認
❓ 「汝は、神となる覚悟があるか」
天草四郎時貞は、首を振る。
「ない」
即答だった。
境が、わずかに揺れる。
「神になれば、人を救えない」
「神になれば、裁いてしまう」
彼女の声は低い。
「私は、人の側に立つ」
「神域に入っても、立ち位置は変えない」
⚔️ 武器の拒絶と承認
一瞬、境が硬化する。
拒絶かと思われた。
だが――違う。
それは確認だった。
武器は、神のための道具ではない。
人のために、神域へ踏み込む者の器。
天草四郎時貞は、視線を逸らさない。
「私は、力を欲する」
「だが、支配は要らない」
🌌 契約直前
ロッドが、彼女の前に浮かぶ。
触れれば、契約。
触れなければ、全ては終わる。
天草四郎時貞は、手を伸ばさない。
「……条件がある」
境が、静止する。
「力は、今はいらない」
「必要なのは――資格だけだ」
🔮 条件
「冬の陣が終わるまで」
「私は、この武器を振るわない」
その言葉は、武器への制限。
同時に、自身への誓約。
「人の理を、戦で壊させない」
「そのために、私は立つ」
🔔 契約
ロッドが、静かに応える。
――承認。
だが、光は弱い。
力は、封じられている。
天草四郎時貞は、ゆっくりと手を伸ばし、
初めて触れた。
熱はない。
だが、確かな“重み”。
🌑 現世へ
夜風が戻る。
星が、再び動き出す。
天草四郎時貞の背には、
武器が在る。
だが、それは眠っている。
「……終わったな」
武器取りは、これで終わり。
🔮 クロノスの導き
時が、語りかける。
「契約は成立した」
「だが、力は眠れ」
「目覚めは――試練の後だ」
天草四郎時貞は、静かに頷く。
🌌 余韻
冬の陣まで、まだ日がある。
だが、世界の配置は変わった。
天草四郎時貞は歩き出す。
武器を背負いながら。
まだ、振るわない。
▶ 次章予告
次章:試練・覚醒編
武器は在る。
だが、力は未だ眠る。
目覚める資格を、次に問われる。
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