⚔️武器覚醒・試練編 ― 兆しの距離 ―
🌅 朝は、完全には来なかった。
空は明るくなったが、色が足りない。
夜の名残が薄く延び、輪郭だけを残して地に伏している。
天草四郎時貞は、その中を歩いた。
人の歩幅で、普段と同じ速さで。
――何も変わらない。
それが、この朝の結論だった。
🔥 兵たちは起き、火を起こし、簡単な食を取る。
誰もが昨日の続きとして今日を始めている。
だが、時貞だけが、昨日を「続き」として扱えずにいた。
背にある気配は、沈黙したままだ。
触れようとすれば触れられる距離。
それでも――
距離が、ある。
「……近いのに、遠い」
声に出した言葉が、静かに自分へ戻ってくる。
武器は拒んでいない。
だが、迎え入れてもいない。
🕯️ 契約とは、終わりではない。
関係の始まりだ。
その関係が、今はまだ「距離」を必要としている。
近づけば応える関係ではない。
時間を要する関係。
時貞は、水を汲みに川へ向かった。
💧 冷たい水に手を浸す。
指先の感覚を、何度も確かめる。
――人であること。
それが、今日の基準だった。
水面に映る顔は、昨日と変わらない。
疲れも、緊張も、特別な光もない。
「……それでいい」
そう呟くと、風がわずかに流れた。
背の沈黙は、応えない。
だが、否定もしない。
🌿 兵の一人が、何気なく言った。
「今日は、空気が変だな」
別の者が笑って返す。
「夜が長かっただけだろ」
時貞は、その会話を聞きながら歩く。
誰も気づいていない。
だが、“何か”は確実に、世界に滲み始めている。
それは音でも、光でもない。
距離感だ。
近いものが、遠くなる。
遠いはずのものが、近づく。
🌙 背の気配が、ほんのわずかに重くなる。
重圧ではない。
存在感でもない。
――測られている。
時貞は立ち止まらない。
立ち止まれば、距離は縮まらないと知っている。
武器は眠っている。
試練は、始まっていない。
だが、
始まる前の時間が、最も人を試す。
歩き続ける。
人の歩幅で。
祈りを持たず、誓いを振りかざさず。
ただ、今日を生きる。
🌄 空が、少しだけ高くなった。
何も起きない朝。
それでも、確実に昨日とは違う朝。
武器覚醒は、まだ先だ。
だが――距離は、縮まり始めている。
🔮クロノス予告
近づくな
離れるな
距離を保て
試練とは
力ではなく
歩みの速度を問うもの
⏳次回予告
第30話:武器覚醒・試練編 ― 静かな観測 ―
違和感は、ついに“他者”に届く。
だが、まだ誰も、その正体を知らない。