― 武器巡礼・進まぬ理と進む覚悟 ―
🌫️
朝靄の中、環は静かに立っていた。
夜明け前の空気は冷たく、肺に入るたびに心まで澄ませていく。
ここは、昨日まで歩いてきた巡礼の地とは違う。
違うはずなのに、どこか似ている。
「……進んでいるのに、同じ場所にいるみたいね」
言葉にした瞬間、環は小さく笑った。
それは迷いではなく、確認だった。
🗺️
武器巡礼とは、ただ力を集める旅ではない。
理(ことわり)を見極め、
取るべきものと、取らぬべきものを選ぶ旅。
前の地で、環は一つの理を見送った。
力はあった。
意志もあった。
だが、歩幅が合わなかった。
それだけの理由で、十分だった。
🗡️
「剣は、まだ黙っているわね」
腰に下げた聖剣は、静かだった。
共鳴も、警告もない。
だがそれは拒絶ではない。
待っているのだ。
環はその沈黙を信頼していた。
自分が焦らぬ限り、剣も焦らない。
🌲
道の先で、元康が立ち止まった。
「ここから先、気配が変わる」
「ええ。澱みじゃない。……選別ね」
二人は同時に頷いた。
理が、環を試しているのではない。
環が、理を選んでいる。
⚖️
巡礼の途中、環は何度も思い出していた。
「正しさ」と「合うかどうか」は、違うということを。
正しいからといって、共に進めるとは限らない。
善意があっても、安心できるとは限らない。
「進めない理を、無理に束ねると……」
「後で必ず、誰かが壊れる」
元康の言葉は、過去を知る者の重みを帯びていた。
🔥
不意に、風が変わった。
剣が、わずかに震える。
環は足を止めた。
「……来たわね」
それは強烈な呼び声ではない。
だが確かに、進むべき方向を示す理。
🛡️
現れたのは、戦の痕跡が残る小さな集落だった。
焼け落ちた家。
修復されぬままの柵。
そして、それを守ろうと立つ人々。
彼らは武器を持っていなかった。
だが、覚悟はあった。
👁️
環は剣を抜かなかった。
代わりに、静かに問いかける。
「あなたたちは、何を守ろうとしているの?」
答えは、即座ではなかった。
だが、沈黙のあとに出た言葉は、重かった。
「……生き方です」
その一言で、剣が鳴った。
✨
それは力の理ではない。
勝利の理でもない。
継続の理。
戦い続けるためではなく、
生き続けるための覚悟。
環の中で、何かが噛み合った。
🗡️
「この理なら……束ねられる」
剣が初めて、はっきりと応えた。
眩い光ではない。
静かで、揺るがない輝き。
🌙
その夜、環は焚き火の前で考えていた。
「進まない理があったから、進む理が分かった」
巡礼は、無駄な回り道ではない。
選ばなかった道が、選ぶ理由を教えてくれる。
🕰️
遠くで、クロノスの気配が微かに揺れた。
《選択は、力ではなく覚悟によって行われた》
環は空を見上げ、静かに息を吐いた。
「ええ。だから、後悔はしない」
🌸
武器巡礼は、まだ終わらない。
だが、進み方は定まった。
合わぬ理は、敵ではない。
ただ、今ではないだけ。
環は剣を収め、次の地へと歩き出した。
⏳次回予告
束ねられた理が、初めて試される。
小さな集落に迫る“理の歪み”。
🔮 クロノス予告
覚醒は数え終えた。
次に近づくのは、天の理。
剣を極めた者、
影に立つ者――
境界が、静かに動き出す。