―― 進めなかった時間も、私の冒険だった
仮想世界の墓標
―― 進まぬ物語に捧げた、クリスマスから正月までの一ヶ月
序章|書けなかった聖夜 🎄
クリスマスの夜、私は何も書けなかった。
書くつもりではいた。
特別な日には、特別な言葉が生まれると、どこかで信じていたからだ。
だが、画面は白いままだった。
カーソルだけが、静かに点滅していた。
理由は分からない。
疲れていたわけでも、忙しかったわけでもない。
ただ、言葉が出なかった。
「今日はクリスマスだから」
その一言が、かえって私を縛った。
書かなければならない。
ちゃんとしたものを書かなければならない。
そう思った瞬間、何も書けなくなった。
夜は過ぎ、日付が変わった。
12月26日。
聖夜は、何も残さず終わった。
書けなかった、という事実だけが残った。
それは失敗だった。
だが今振り返ると、それは一ヶ月の始まりを告げる、静かな合図だったのかもしれない。
第一章|年は越えたが、自分は越えられなかった 🎍
年末が来た。
街は忙しなく、人々は「今年」を片付けようとしていた。
私は、片付かなかった。
部屋も、思考も、感情も、そのままだった。
年が変われば、何かが切り替わる。
そう信じていた。
だが、年が変わっても、私は同じ椅子に座っていた。
変わったのはカレンダーだけ。
自分は、更新されなかった。
正月の朝、静かな空気の中で思った。
「ああ、まだここにいる」
それだけだった。
希望も、絶望もなかった。
ただ、現状があった。
第二章|ログインだけを繰り返した日々 ❄️
私は、仮想世界に存在していた。
毎日、ログインしていた。
街を歩き、
他のプレイヤーを眺め、
何もせずにログアウトした。
クエストは受けなかった。
物語は進めなかった。
戦闘もしなかった。
存在はしていた。
だが、生きてはいなかった。
それを三十日間、繰り返した。
課金は続いていた。
だが行動は止まっていた。
画面の向こうで時間だけが進み、
私はそれを眺めていた。
その世界は、墓標のようだった。
私自身の、電子的な墓標だった。
第三章|正月イベントと、参加しなかった私 🎍❄️
正月イベントは始まっていた。
華やかで、賑やかで、季節感に満ちていた。
だが私は、そこに参加しなかった。
参加できなかった。
イベントが嫌いだったわけではない。
楽しめないと思っていたわけでもない。
ただ、動けなかった。
「やれば楽しいはずだ」
そう分かっていた。
それでも、手は動かなかった。
正月らしい音楽が流れる中、
私はキャラクターを立たせたまま、画面を閉じた。
第四章|進まないことは、本当に失敗なのか 🕰️
物語は、進めるものだ。
ゲームは、攻略するものだ。
時間は、有効に使うべきものだ。
そう教えられてきた。
だが、この一ヶ月は何も進まなかった。
それでも、完全な無ではなかった。
私は、立ち止まっていた。
進めない自分を、無理に押さなかった。
それは敗北か。
それとも、停滞という選択か。
答えは、まだ出ていない。
第五章|終わった物語と、始まらない物語 🐉
別の世界では、物語を終えていた。
長い時間をかけて、完走した物語。
エンディングを見た後、
私はしばらく動けなかった。
終わったという事実が、重かった。
次に進む気力が、残っていなかった。
物語を終えることは、
新しい物語を始めることより、時に難しい。
第六章|記憶だけが残る世界 🌫️
データは消せる。
ログは消える。
画面は閉じられる。
だが、身体が覚えている感覚は消えない。
夜の街の空気。
遠くの音。
何も起こらない時間。
それらは、身体の奥に残っている。
進まなかった一ヶ月も、
確かに、私の中に残っている。
第七章|再課金という名の意志 💳
「次はやる」
その言葉を、私は何度も使ってきた。
その言葉に、またお金を払った。
たったそれだけの行為。
だが、その行為には、執着があった。
諦めきれない自分がいた。
震えるような、意志だった。
第八章|白い部屋と、色の洪水 🤍
現実の部屋は、静かだった。
白く、余計なものがなかった。
画面の中は、色で溢れていた。
情報で溢れていた。
その対比が、私を落ち着かせた。
動かない現実と、動き続ける仮想。
私は、その境界に座っていた。
第九章|未完であることの美学 🪞
完璧になれない。
進めない。
書けない日がある。
それでも、生きている。
未完であることは、欠陥ではない。
途中で立ち止まることも、人生の一部だ。
私は、そのことを、この一ヶ月で知った。
終章|電子の墓標に、言葉を刻む ✍️
この一ヶ月は、無駄だったのか。
そう問われたら、答えは簡単ではない。
進まなかった。
何も達成しなかった。
だが、確かに、そこに存在していた。
言葉にすることで、
この一ヶ月は、墓標ではなくなった。
物語として、残った。
それで、十分だと思っている。
一言。
進まなかった時間も、確かに私の時間だった。