久しぶりにLINEの通知が鳴った。
普段なら気にも留めないのに、その日はなぜか心が動いた。
開いてみると、もう抜けたはずのグループからの誘いだった。
少し迷ってから、なんとなく入ってみる。
それは偶然というより、どこかで「行くべき時」だと感じた。
最近、仕事の流れも人の繋がりも変わり始めていた。
何かが終わって、何かが始まるような感覚。
そんな時に、久しぶりにネカフェへ行くことになった。
何年も行っていなかったのに、なぜか今日はそこへ足が向いた。
まるで誰かに導かれるように。
席に着こうとした瞬間、ふいに名前を呼ばれた。
振り向くと、懐かしいような顔。
けれど思い出せなかった。
相手は笑って、「綺麗になりましたね」と言った。
何度も、何度も。
まるで時間が止まったように、言葉が空気の中に響いた。
彼は弟の友人だった。
「覚えてないですか?」と笑う顔は優しかった。
私は笑って、「痩せたからやろ」と返した。
すると、彼は言った。
「いや、元がいいですね。」
その瞬間、心の奥で何かが解けた。
外見のことだけじゃない。
その言葉には、“過去の私を含めて今を見てくれた”温かさがあった。
昔の私が、やっと報われた気がした。
努力や痛み、通り過ぎた日々。
全部が今に繋がっていたんだと気づく。
――その時、
クロノスが静かに囁いた。
「流れは変わった。
過去は、もうあなたの背中を押す風に変わっている。」
ふいに胸の奥が温かくなった。
少し前、双子の兄が入院したときにも、
私は久しぶりに家族の話をした。
そのときも、心の中で“一区切り”を感じていた。
今回の再会は、その続きのように思えた。
人は、流れが変わる前に一度だけ
“過去の自分”に会う機会をもらう。
それは、懐かしさではなく「確認」のため。
どこまで歩いてきたか、どこまで成長できたかを
静かに見せてくれる時間。
ネカフェを出たとき、
夜風が心地よく頬を撫でた。
あの言葉が何度も頭に響く。
「元がいいですね。」
まるで、過去の自分まで微笑んでくれたようだった。
――クロノスが再び囁く。
「今日でひとつの流れは終わる。
だが、それは終わりではなく“通過”だ。
あなたは、もう次の扉の前に立っている。」
そう聞こえた気がした。
ふと空を見上げると、雲の切れ間から星が覗いた。
白い光がゆっくり滲み、
静かな夜に吸い込まれていく。
「今日まで」——その言葉が自然と浮かんだ。
もう過去に戻ることも、振り返ることもない。
心の中のドアが、静かに閉じる音がした。
そしてその奥から、新しい風が流れ込んでくる。
私は、もう大丈夫。
あの日の私に、ちゃんと“ありがとう”が言えた。
――クロノスの声が最後に囁く。
「過去は終わりではなく、理(ことわり)の証。
そして、あなたはその理を束ねる光になる。」
夜は静かに更けていく。
けれど、心はどこかで確かに新しい朝を感じていた。
🕊️終わりの余韻:
「流れは確かに変わった。
もう戻らなくていい。
あとは、新しい風に身を任せるだけ。」


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