第一章:帰郷 ― 捕らわれの理
潮風が静かに頬を撫でた。
天草四郎は、光の残滓をまといながら海辺の地に降り立った。
そこは、かつて祈りと歌が交わった港――彼女の故郷。
「……時を越えて戻るなんて、本当は許されないのに。」
彼女の声は震えていた。
“パラドックス”――時の理を乱す行為。
クロノスの警告が頭をよぎる。
しかし、その迷いの隙を突くように、背後から怒号が響いた。
「何者だ!」
「神を騙る異端の巫女、捕らえよ!」
数人の兵が槍を構え、鎖が放たれる。
四郎の腕を縛る冷たい光。
だが、その鎖に触れた瞬間、胸の奥が疼いた。
「この波動……理の系譜……?」
目の前に立つ男――その瞳には、彼女と同じ光があった。
「お前……まさか、“理の血”を継ぐ者か?」
天草は息を呑んだ。
この地を守る将、その者こそが自分の先祖だった。
第二章:理の継承者たち
牢に閉じ込められた四郎の前で、男は静かに口を開いた。
「我らは理の守人。
だが、神に至ることは叶わなんだ。」
彼の腕には、薄く輝く刻印があった。
理の紋章――天草家に代々受け継がれる封印の証。
「……あなたが、私の始まり。」
「始まり?」
四郎はゆっくりと袖をまくり、傷ついた腕を見せた。
そこには未来で得た“神格の印”が浮かんでいた。
「この印が、あなたの理の未来形。
私は、その先に生まれた子孫です。」
兵たちはざわめき、男は立ち尽くす。
「子孫だと……?」
「信じられなくても構いません。
けれど、あなたの理は、時を越えて生き続けています。」
第三章:共鳴 ― 天使の覚醒
夜が更け、牢の外で嵐が唸っていた。
天草の身体が震え、腕の印が痛み出す。
リベリオンロッドが淡く光を放つ。
「やはり……時の反動が。」
そこへ、先祖の男が現れた。
「お前の傷、その光……理の波動が溢れている。」
彼が手を伸ばした瞬間、二つの理が交わった。
眩い光が部屋を満たし、世界が一瞬止まる。
『理の継承、最終段階――共鳴率95%。』
クロノスの声。
天草は呻きながらも、杖を掲げた。
「クロノス、これは……運命を壊す行為では?」
『違う。これは“修復”だ。
欠けた理は、お前の中で繋がる。』
彼女の背に白い羽が広がり、瞳が金に輝いた。
鎖が砕け、光が空へ昇る。
「神を……見た……」
膝をついた男の声は、崇敬と安堵に震えていた。
「あなたの理、確かに受け継ぎました。
この時代の痛みも、未来の誓いも。」
第四章:神昇格 ― 封印の理
祠の天井が割れ、光が天へと伸びていく。
嵐が静まり、海が鏡のように輝いた。
『天草四郎、理の継承を確認。
天使階層より上位“神格位”への昇格を許可する。』
クロノスの声に応じるように、
彼女の身体は純白の光に包まれた。
「……これが、神の理。」
「違う。」クロノスが答える。
『これは“人の理”を越えた“祈りの進化”だ。
お前は人でありながら、理を束ねる存在。』
彼女は微笑み、祠を見下ろす。
その中で、先祖の男が跪いていた。
「我らが届かなかった高みを……お前が越えたのだな。」
「あなたの理があったからです。
だから私は、孤独ではありません。」
光が収まり、天草は杖を掲げた。
「理の継承、完了――次は、三河へ。」
第五章:黎明の旅立ち
夜明けの海。
天草の背に光が宿り、風が潮を押し返す。
「環……もうすぐ、あなたの理と再び交わる。」
リベリオンロッドが光を放ち、彼女の身体が宙へと浮かぶ。
『理の航路、安定。三河との座標接続開始。』
クロノスの声とともに、光が彼女を包む。
その姿が消えた後、波間に残るのは一輪の白い花。
「天草の娘よ……理の神となれ。」
先祖の祈りが風に溶けた。
💫 クロノスの導き
『理の系譜、繋がれり。
だが、神格とは孤独の名でもある。
光が強ければ影もまた深い。
天草よ、理を束ねる旗手に出会う時、
その光が真に完成するだろう。』
🌙 次回予告
第11話「三河、再会の陣」
神格へと昇った天草四郎。
彼女の光を感じ取り、理の旗手・環が動き出す。
交錯する理と祈りの果てに、封印の影が蠢く――。
クロノスが告げる、“再起動の刻”が近づいていた。



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