🌸戦国ファンタジー第19話

戦国ファンタジー
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「天草四郎・神降臨 ― 光の理が降りた夜」

三河の山あいに、冬の気配がゆっくりと忍び込む。

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空気は澄んでいるのに、どこか胸の奥に引っかかるようなざわめきがあった。

(今日は……なぜか胸が落ち着かないわ)

石田三成は、胸元を押さえながら大きく息を吐いた。

だがその理由は、自分でもわからない。

夢を見たわけでも、啓示を受けたわけでもない――

ただ、胸の奥でなにかがかすかに触れたような感覚だけが残っていた。

「三成、行くぞ。準備はできとるか?」

呼びかけたのは、三河の主・松平元康。

彼女はどこか楽しそうに微笑んでいた。

「はい。問題ありません。」

「固っ苦しいやつじゃなぁ。もっと肩の力を抜かんか。」

元康は豪快に笑いながら三成の肩を軽く叩いた。

今日の三成は、元康との友情だけで巡回に参加している。

夢も見ていない。

天草の気配も知らない。

ただ、元康に「一緒に来い」と言われただけ――それだけだ。

(元康様が言うなら……私は行くだけ)

それ以上の理由はない。

だが、それだけで十分だった。

🌕1:三河の静寂と、不吉な気配

巡察の道はいつもより静かだった。

鳥の声も、風の音も、何かを示唆するようにこだましている。

「しかし三成、おぬし最近どうじゃ?」

「え……どうとは?」

元康がふっと優しい目を向ける。

「なんか顔つき変わったのう。良い方にじゃ。」

三成は少し戸惑いながら視線をそらした。

「そう……でしょうか。」

「うむ。わしにはわかる。」

元康は頼もしさと姉のような温かさをあわせ持っている。

三成が三成でいられる理由のひとつだった。

三成が返事をしようとした瞬間――

ザァァァ……ッ。

空気がゆっくりと揺れ、山の頂から“白い光”が漏れた。

「……今のは?」

元康も眉をひそめる。

「胸が……ざわつきます。」

「わしもじゃ。嫌な感じではないが……妙な光じゃ。」

二人は山頂の方を見つめた。

そこには、まるで夜空に逆さまに差し込んだような“白い柱”が立っていた。

🌟2:山頂へ――導かれる二人

「行くぞ、三成!」

「はい!」

二人は走り出した。

山道は急だったが、何かに引き寄せられるように足が止まらない。

三成は胸のざわつきに戸惑っていた。

夢ではない。

啓示でもない。

なのに――

(呼ばれている……?)

理由はわからない。

だが、足が自然と光へ向かっていた。

元康がちらりと横目で三成を見る。

「怖いか?」

「いえ……不思議なだけです。」

「ならよい。おぬしの顔つきは、今“逃げる顔”ではない。」

その言葉は三成の背をさらに押した。

🔥3:天草四郎、現る

山頂へ辿り着くと、世界が変わっていた。

白い光が雪のように降り注ぎ、地面は淡く発光している。

その中心で――一人の少女が静かに佇んでいた。

黒髪が風もないのに揺れ、肌は光を反射して薄桃色に輝く。

背にはまだ形を成さない“白い羽の影”。

「……天草、四郎……?」

元康が呟いた。

少女はゆっくりと目を開け、二人を見た。

「来てくれたのね、元康。それに……三成。」

声は優しく、触れれば溶けてしまいそうな光そのもの。

三成は知らず一歩前に出ていた。

「……あなたは……?」

「わたしはまだ“人”の形をしているけれど、もうすぐ違う姿になるわ。」

四郎が微笑んだ瞬間。

ドンッ――!!

空が割れるような音とともに、“光の羽”が一気に広がった。

三成は思わず目を覆う。

(何……これは……!)

胸のざわつきが一気に熱に変わった。

だが、まだ“夢”ではない。

あくまで前兆――微かな揺らぎ。

✨4:神降臨 ― 理の翼が開く

光が弱まり、三成はゆっくりと目を開いた。

そこにいたのは――もはや“人”ではなかった。

白い光の翼を広げ、天草四郎は宙に浮かんでいた。

「わたしは――“光天使”。

 理を守り、魂を導く存在。

 この時代に降りる必要があった。」

元康が息を呑む。

「四郎……おぬし……神になったのか。」

「正しくは “神格へ至る途中”。でも、もう戻れない。」

三成は理解が追いつかず、ただ光に見とれていた。

四郎は三成の胸に視線を向ける。

「三成……あなたはまだ何も知らない。

 夢も見ていない。

 それでいい。」

「……どうして、私のことを……?」

「あなたの理は、これから育つ。

 今は動かず、ただ“見ていて”。

 その時が来たら――胸の奥が、未来を映すから。」

まるで母が子を諭すような声だった。

三成は胸に手を当てる。

(未来……?)

意味はわからない。

だが胸のざわめきは、先ほどよりも強く、温かかった。

🌌5:未来と過去の裂け目 ― 四郎の告白

四郎は空を見上げ、静かに語り出した。

「この世界は、理が揺らいでいる。

 未来ではもっと大きな崩壊が起きる。」

「未来……?」

「わたしは未来を知っている。

 そこには“澪”という少女が生まれ、世界の鍵となる。」

三成も元康も息を呑む。

「その子を守るために、わたしは過去へ逃げた。

 そして、この時代に“理の種”を植えるために降りた。」

三成はその言葉が胸の奥に“しみ込む”ような感覚を覚えた。

理由はわからない。

だが、心が震えた。

(私に……何が起きているの……?)

四郎は優しく微笑んだ。

「まだ気づかなくていいの。

 三成の夢は、これから濃くなる。

 その時、あなたは“光と影の意味”を知る。」

🕊6:天草四郎、還る

四郎の身体が再び光に満ちる。

「わたしはしばらく天に戻るわ。

 でも、あなたたちの理は必ず未来に繋がる。」

元康が前に出る。

「四郎。わしらは何をすれば良い?」

「見回りを続けて。

 各地で“理の揺らぎ”を拾い、次の道を繋いで。」

元康はうなずいた。

そして四郎は――三成に微笑みかけた。

「三成。胸の温かさを覚えておきなさい。

 あなたの物語は、まだ始まっていないの。」

三成の胸がじん、と熱くなった。

(始まっていない……?

 では今のこれは……?)

問いかける間もなく、光が天へ昇った。

天草四郎は、静かに消えていった。

🌙7:残された温かさ ― 三成の“前兆”

四郎が消えた跡に、白い光の粒が舞い落ちた。

三成はそれをそっと手に取る。

温かかった。

「三成……大丈夫か?」

元康の声で我に返る。

「はい……ただ……胸が……少し。」

「痛むのか?」

「いえ。

 あたたかいのに、なぜか寂しくなるような……不思議な感覚です。」

「……そうか。」

元康は三成の肩に手を置いた。

「今はそれでよい。

 わしらは巡察を続ける。

 おぬしはおぬしのままでおればよい。」

三成は小さくうなずいた。

胸の熱はまだ消えなかった。

(夢ではない。

 でも……これはきっと、何かの始まり。)

三成は空を見上げた。

そこには、天草四郎が残した光がゆっくりと消えていくのが見えた。

🌟《次回予告》

第20話「光の残響 ― 天草が残した理と未来」

天草の消えたあとに残る光。

胸の温かさは、三成の“前兆”となり、

元康は各地の巡察に動き出す。

🔮クロノスの囁き

「理は静かに、しかし確実に芽吹く」

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