🌙第23話 呼ばれし影、天草四郎時貞 ― 静かな月の前触れ ―
🌙 序：冬の気配と、揺らぐ理
冬の陣を告げるかのように、空気が少し重くなり始めていた。
環はその変化を肌で感じながら三河の拠点を歩く。
地脈の流れが、どこか“違う”。
それは悪い兆しではない。
ただ、何かが近づいてくる。そんな空気。
元康は武田・上杉からの報告書に目を通しつつ眉を寄せる。
「環、最近……妙な気配を感じぬか？」
環は小さくうなずく。
「理がさざめいてる。まだ形になってないけど……“誰か”が近い。」
その“誰か”こそ、後に歴史を揺るがす存在――
天草四郎時貞であることを、今はまだ誰も知らない。
しかし予兆は静かに始まっていた。
🔥 一：元康と三成 ― 静かな友情の深化
元康と三成は、拠点の裏手で弓の調整をしていた。
「……元康殿、あの夢のことだが……最近は見ない。」
三成はそう言って、どこか胸の重荷を下ろしたように息を吐く。
「夢を見ないのは良いことだ。今のおぬしは“理に引きずられていない”。」
元康は優しい口調で仕上げた弓を渡す。
「おぬしは夢に導かれるんじゃない。
自分で選ぶ理の中で、生きればよい。」
三成はその言葉に表情を緩める。
（元康殿……この人は、私が迷ったとき必ず道を示してくれる）
三成の胸に宿るその感情は、まだ名前のない“絆”だった。
ただ確かに温かく、深まっている。
この静かな友情こそ、後に彼の覚醒へと繋がる“鍵”となる。
⚡ 二：夜の三河――現れた“誰か”
その夜、三河の拠点の周囲で 光の粒子が静かに集まり始めた。
環は真っ先にその異変に気づき、外へ飛び出す。
「……来る。」
空気が澄み渡り、冷気が肌を刺す。
その中心に、ひとりの少女が立っていた。
白銀の髪、静かな瞳。
“現代”の気配をまとった、不思議な少女。
名前を言わずとも、環は直感した。
――これは“時の理”に選ばれた者。
少女は薄く微笑む。
「あなたが、環さんですね。」
その声音は優しいが、どこか“こちらの理を超えた響き”がある。
元康と三成が駆けつけると、少女は環の後ろの二人を静かに見つめた。
「あなた方も……大切な役目を持っています。
まだ形にならないけれど、必ず“必要な時”が来る。」
三成は思わず息をのむ。
「あなたは……誰だ？」
少女は名前を名乗らない。
ただ、月明かりを受けて淡く光る姿が答えだった。
（この者は……時を超える理を持っている）
環の心の奥で、聖剣の光が微かに震える。
（……そう。これは“前触れ”。
この子は、まだ敵でも味方でもない。
ただ使命に従ってここへ来た――）
少女は静かに言う。
「私は……導きの途中です。
あなたたちに会うのは、“始まりの前”だから。」
“始まり”――
それは24話で訪れる 天草四郎時貞の神昇格 のことだった。
🌑 三：少女が告げた“未来”
少女は環に近づき、小さな声で囁く。
「環さん。あなたが束ねる理は、まだ欠けています。
でも……それが満ちる日が近い。」
環は息を呑む。
「欠けている……“理”？」
「ええ。
あなたたちが戦う“冬の陣”は、まだ序章なんです。」
少女の瞳には静かな覚悟があった。
「そして……“彼”が覚醒すれば、理の流れは大きく変わる。
あなたたちが次の段階に進むための鍵になります。」
元康が小声で環に問う。
「環……“彼”というのは……？」
環は答えない。
少女はその質問にのみ静かに微笑む。
「答えはもうすぐわかります。
ただ……争わないで。
“冬”は、あなたたちを試す季節になる。」
その言葉を残し、少女は光の粒となって消えていった。
三人だけが残された。
風が止み、ただ月光だけが静かに降り注ぐ。
🔥 四：環の確信 ― これが“導き”の始まり
少女の消えた方向を見つめながら環は呟く。
「……あれが、“天草四郎”の理の影。」
元康が驚く。
「ま、まだ名乗っておらんぞ？」
環はうなずく。
「だけど……あの気配は“神の予兆”。
彼女はまだこの戦に関わらない。
味方でも敵でもない“観測者”。」
三成が震える声で言った。
「では……彼女は……いずれ……？」
環は静かに言う。
「うん。
彼女が本当に現れるのは“24話”――神昇格の時。
今はまだ“影”の姿。
私たちをただ見に来ただけ。」
元康は納得したように頷く。
「ならば……今は兵を動かす段階ではないな。」
環は月を見上げて微笑む。
「うん。“冬の陣”の前兆だね。
これから理は大きく動き出す。」
三成はその言葉の意味を理解しきれなかったが、胸の高鳴りは止まらなかった。
（何かが始まる……
元康殿の側で、私は何を選ぶのだろうか）
それこそが、後の試練と覚醒へつながる“最初の揺らぎ”であった。
🌕 終：静かな月が告げる、物語の転換点
少女の正体はまだ語られない。
しかし、それが 天草四郎時貞の“理の影” であることは確かだった。
環は小さく呟く。
🔮 クロノスの導き
冬の理は静かに満ち、影は形を得る。
“名乗らぬ少女”が残した光は、やがて天と地を結ぶ道となる。
環が抱く違和感は、未来からの微かな囁き。
まだ閉じたままの“神の扉”は、次の瞬間に開き始める。
揺らぎは兆し。兆しは導き。
そして導きは――覚醒の前触れ。
⏳ 次回予告 第24話「天草四郎、神降りの刻」
静かな月が消え、冬の空に光の柱が立つ。
少女の“影”は形を持ち、その名は――天草四郎時貞。
理が一気に動き出す瞬間、環たちは初めて“神の誕生”に立ち会う。
冬の陣、動き出す前夜。