🔔 天草四郎時貞 ― 武器取り・第一夜
第24話の夜は、まだ終わっていなかった。
戦の気配はある。だが、刃が交わるには早い。
冬の陣までは、まだ日がある。
それでも――
理は、先に動いた。
🌑 夜の歪み
夜気が、重い。
冷たいのではない。
重く、沈むような感覚だ。
天草四郎時貞は、足を止めた。
理由は分からない。
だが胸の奥で、確かに“何か”が鳴っている。
「……来ているな」
誰に向けた言葉でもない。
それでも、口にせずにはいられなかった。
次の瞬間、風が止んだ。
焚き火の音が消え、草の揺れが凍りつく。
世界が――
彼女だけを残して、遠ざかった。
🕯️ 境界の出現
足元の感触が変わる。
土でも石でもない。
踏みしめているはずなのに、
“重さ”が返ってこない。
ここは現世ではない。
だが、完全な神域でもない。
――武器取りの境(さかい)。
神が武器を与える場所ではない。
武器が、持ち主を選ぶ場所。
天草四郎時貞は、迷わず前へ進んだ。
🔮 問いは声を持たない
音はない。
だが、問いは確かに存在していた。
❓ 「汝は、何を信じて立っている」
天草四郎時貞は立ち止まる。
祈る姿勢は取らない。
跪きもしない。
ただ、真っ直ぐ前を見据えた。
「……信じているものはある」
間を置き、続ける。
「だが、それは“救い”ではない」
空間が、わずかに揺れた。
「人は、救われないことがある」
「祈りが届かない夜もある」
一歩、前へ。
「それでも、立つ」
「それでも、見捨てない」
⚖️ 信仰と反逆
問いは続く。
今度は、より深く。
❓ 「神に従うか。理に従うか」
天草四郎時貞は、少しだけ笑った。
「……どちらでもない」
その言葉に、空気が張り詰める。
「神に従えば、人を切ることになる」
「理に従えば、祈りを捨てることになる」
彼女は首を振る。
「私は――
どちらにも、完全には従わない」
沈黙。
長い、長い沈黙。
それは拒絶ではない。
選別だった。
⚔️ 遠くで鳴る音
――カン。
金属でも、鐘でもない。
だが、確かに“武器の音”。
視界の奥で、何かが揺らめく。
まだ形はない。
だが、存在だけは分かる。
🔔 武器は、ここにある。
ただし――
まだ、出てこない。
🔥 理の圧
一歩進むたび、圧が増す。
力ではない。
重さでもない。
“覚悟”を測る圧だ。
天草四郎時貞の脳裏に、過去が流れる。
祈った日。
祈りを否定された日。
それでも、祈ることをやめなかった夜。
「……私は、神になるために来たわけじゃない」
その言葉に、圧が強まる。
「人の側に立つために、ここに来た」
🌌 武器の影
闇の中に、輪郭が浮かぶ。
剣ではない。
槍でもない。
長く、細く、
“叩くため”でも“斬るため”でもない形。
それは――
意思を通すための器。
天草四郎時貞は、足を止めた。
まだ、触れられない。
ここで触れれば、拒絶される。
これは武器取り。
覚醒ではない。
🕯️ 最初の通過
問いが、最後に一つだけ残る。
❓ 「汝は、敗北を受け入れられるか」
彼女は、即答した。
「受け入れる」
驚きはない。
迷いもない。
「勝てぬ戦もある」
「守れぬ命もある」
それでも――
「それを理由に、立つのをやめない」
空間が、静かに緩んだ。
🌑 現世への帰還
夜風が戻る。
音が、匂いが、温度が戻る。
天草四郎時貞は、元の場所に立っていた。
だが、確かに違う。
胸の奥で、
“武器がこちらを見ている”。
「……第一段階、か」
独り言のように呟く。
これは契約ではない。
だが、拒絶もされなかった。
――通過したのだ。
🔮 クロノスの導き
どこからともなく、声が重なる。
「よくぞ、ここまで来た」
「だが、武器はまだ渡らぬ」
「次は――選別だ」
天草四郎時貞は、静かに息を吐く。
「分かっている」
冬の陣まで、まだ日がある。
だが、武器取りはもう始まった。
🌌 余韻
星を見上げる。
同じ夜空だ。
だが、もう以前とは違う。
天草四郎時貞の背後で、
理が、静かに回り始めていた。
▶ 次回予告
第26話|⚖️ 武器取り・第二夜 ― 理の選別
武器は、信仰を試す。
そして――反逆をも。