🌸戦国ファンタジー 第28話🌸

戦国ファンタジー
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武器覚醒・試練編 ― 眠りの契約 ―

夜が、明けきらない。

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東の空はわずかに薄くなっているのに、星はまだ退かず、風も静まらない。

天草四郎時貞は、夜露の残る地に腰を下ろし、呼吸を整えていた。胸の奥に残る重さが、眠りを拒んでいる。

契約は結ばれた。

それは確かだ。

だが――何も変わらない。

身体は軽くならず、視界も研ぎ澄まされない。力の奔流も、神の囁きもない。ただ、昨日と同じ身体、同じ夜、同じ静けさが続いている。

「……静かすぎる」

呟いた声が、闇に吸われた。

背にあるはずの“それ”を、時貞は振り返らない。触れもしない。

眠っている。

そう感じるだけで、確信はない。武器がそこにあるという事実だけが、胸の底で鈍く重なっている。

契約の場で交わした言葉は、まだ温度を持っている。

捨てないこと。

越えること。

神にならないこと。

選んだ答えに後悔はない。だが、その答えが何も起こさないという形で返ってくるとは、思っていなかった。

時貞は立ち上がり、周囲を見渡す。

兵たちは眠っている。火は落ち、焚き木の灰が白く崩れている。誰もが、いつもの夜の続きとして朝を待っている。

――世界は、何も知らない。

「それでいい」

自分に言い聞かせるように、時貞は小さく頷いた。

知られない力。

使われない力。

それは、選んだ結果だ。

だが同時に、胸の奥で別の感覚が芽生えていた。

使えないのではない。使わせてもらえない。

契約は“許可”ではなかった。

“保留”だ。

歩き出す。足音が、いつもより遠く感じられる。

夜の縁を踏み越えるような感覚。現実が、半歩だけ遅れてついてくる。

祈りの言葉が、ふと口をついた。

誰に向けたものでもない。神に捧げる祈りではない。民に向ける誓いでもない。

ただ、自分を保つための言葉。

「……まだだ」

その言葉に、背の気配は応えない。

沈黙は、拒絶ではなく、待機だった。

時貞は思い出す。

問いは、力についてではなかった。

在り方についてだった。

神にならない。

それは、力を否定することではない。

力に居場所を与えないという選択だ。

人の側に立つ。

それは、常に弱さの隣に立つということ。

勝ち切れない夜を抱えたまま、歩き続けるということ。

「……だから、眠っているのか」

風が、わずかに動いた。

星が一つ、雲に隠れる。

契約は成立した。

だが、覚醒はしていない。

それは矛盾ではない。

この世界では、よくあることだ。

力は、正しさに反応しない。

耐え続けた時間に反応する。

時貞は膝をつき、地面に指を置いた。冷たい。確かな現実。

この感触がある限り、自分は人だ。

「……それでいい」

再び言う。

今度は、迷いのない声だった。

遠くで、夜明けの鳥が鳴く。

兵の一人が寝返りを打つ気配。

世界は、ゆっくりと朝に向かっている。

――何も起きない。

だが、何も起きないことが、これほど重いとは。

背にある沈黙は、剣よりも、槍よりも、重い。

使われない力は、使われる力よりも、持ち主を試す。

時貞は歩き出す。

誰にも告げず、誰にも触れず、ただ日常の中へ戻る。

契約を結んだ者としてではなく、

契約を抱えたまま生きる者として。

空が、少し明るくなる。

夜は、完全には去らない。だが、留まりもしない。

武器は眠っている。

試練は、始まっていない。

それでいい。

始まらない時間があるからこそ、始まった時に耐えられる。

時貞は、歩く。

人の歩幅で。

🔮クロノス予告

契約は終わった

覚醒は、まだ

沈黙に耐える者だけが

次の問いに辿り着く

▶ 次回予告

第29話:武器覚醒・試練編 ― 兆しの距離 ―

何も起きない日々の中で、

“起きてはいけない違和感”だけが、静かに近づく。

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