⚔️戦国ファンタジー 第48話

💫戦国ファンタジー💫
スポンサーリンク

🌫️「静けさの輪郭」――理は、声を出さずに近づく――

🔥焚き火は小さく、夜の湿気に負けそうで、何度も揺れた。

スポンサーリンク

それでも火は消えない。誰かが薪を足したわけでもないのに、芯だけが残り続ける。

環は、その火をじっと見つめていた。

炎の色は、赤でも橙でもない。夜に溶けるような、薄い金色。

「……消えないね」

ぽつりと呟いた声は、闇に吸われていった。

隣で、竹中半兵衛が布を膝にかけながら息を吐く。

「消えない“火”は、良い兆しとも悪い兆しとも言えます」

「……どっち?」

「どちらにもなり得る。今は、まだ決まっていない」

🌙“決まっていない”――その言葉が、今夜の空気そのものだった。

敵がいるのか、いないのか。

味方が増えるのか、減るのか。

戦が始まるのか、始まらないのか。

そして何より、自分たちの理が、次にどこへ向かうのか。

🌿「音のない違和感」

💧川は近い。見えないのに、匂いで分かる。

水の匂いは、冷たくて、透明で、理由がない。

理由がないのに、確かにそこにある。

風が一度だけ吹いた。

その時、草むらの奥で“何か”が動いた気配がした。

「……今の」

真田幸村が槍に手を置く。

「人?」

「違う」

環は即答した。

人なら、匂いがある。歩幅がある。息づかいがある。

今のは、どれも無かった。

「気配だけが通った」

半兵衛が静かに言う。

「気配だけ?」

「はい。形になっていないものが、通ったのです」

🌀形になっていないもの。

それは、まだ“敵”でも“味方”でもない。

ただの、揺らぎ。

「理の揺らぎ……」

環が言葉にすると、焚き火がぱちりと音を立てた。

まるで同意するように。

「怖い?」

幸村が横目で見てくる。

「怖いよ」

環は正直に頷いた。

「でも、怖いって言えるうちは大丈夫。怖さが消えた時が、一番危ない」

幸村は鼻で笑う。

「相変わらず、冷静に怖がるな」

「怖がるのは、ちゃんと見てる証拠でしょ」

その会話だけで、少しだけ空気が緩んだ。

だが緩みの裏側に、薄い緊張がずっと残ったままだ。

🕯️「灯りの外側」

天草四郎時貞は、少し離れた場所で空を見上げていた。

瞳は静かで、誰よりも落ち着いているように見える。

けれどそれは、彼女が何も感じていないからではない。

天草四郎時貞は、感じすぎる。

感じすぎるから、言葉を選び、沈黙を選ぶ。

環は立ち上がり、彼女の隣へ歩いた。

草の上を踏む音が小さく響く。夜は、音を増幅させる。

「……天草」

「はい」

声だけで返事が来る。振り向かない。

「今日、何か見えた?」

「見えた、というより……」

天草四郎時貞は、空を見上げたまま言う。

「“見えないものが増えた”気がします」

「増えた?」

「以前は、見えないものは“遠かった”。でも今は、近い」

🌌近い。

それは、“現実になる距離”だ。

「戦の気配?」

「戦とは違います。戦は、理由がある。

けれど今近づいているのは、理由そのものを壊すもの……」

「……理を壊すもの」

環が言うと、天草は小さく頷いた。

「だからこそ、今夜は戦わない方がいい」

「うん」

「戦えば、相手に“形”を与えてしまうから」

なるほど、と環は思った。

形になっていないものに剣を振るえば、剣の方が先に“意味”を作る。

意味は、敵を生む。

「戦わない」

それは逃げではない。

“相手を作らない”という強さだ。

🧭「進まない時間」

夜が深まり、焚き火の火がさらに小さくなった頃。

奇妙な錯覚が、全員を包んだ。

🕰️時間が進んでいない。

動いているのに、進んでいない。

歩いたのに、距離が変わっていない。

「……おかしい」

半兵衛が、指先で砂をすくい、落とした。

落ちるはずの砂が、落ちるまで一瞬“遅れる”。

「時が、薄い」

「薄い?」

幸村が眉をひそめる。

「時が濃い場所は、未来へ向かって押し出されます。

だが時が薄い場所は、押し出しが弱い。

だから、足が重くなる」

環は目を閉じた。

確かに、足が重い。

重いのに疲れてはいない。

“引き止められている”感覚だけがある。

「……ここ、留まりすぎたら危ないね」

環が言うと、天草四郎時貞が静かに答える。

「はい。理の薄い場所は、意志が削られます」

「意志が?」

「決める力が、弱くなる」

それは、最も嫌な種類の危険だった。

剣で斬れない。槍で突けない。

ただ、じわじわと奪う。

🌊「水の匂いと、終わらない予感」

風が吹いた。

川の匂いが強くなる。

環は、思わず川の方角を見た。

見えない。

でも分かる。

水が近い。

「……水が呼んでる」

環が呟くと、半兵衛が視線を上げた。

「水は、洗い流します」

「うん」

「同時に、境界も洗います」

「……境界」

「人と人の境界。敵と味方の境界。

そして、あなたが“あなた”である境界」

環は、そこで息が止まりかけた。

境界が洗われる――それは、今の自分にとって最も現実的な言葉でもあった。

「奪われるってこと?」

「違います」

半兵衛はきっぱり否定した。

「“余計な枠が剥がれる”だけです」

「……余計な枠」

環は少し笑った。

「それなら、悪くない」

「ただし」

半兵衛は続ける。

「剥がれた後、あなたが何を選ぶかで、世界が変わります」

「世界が?」

「はい。あなたの選択は、仲間の選択にもなる」

環は焚き火の方へ戻り、火を見つめた。

🔥小さいのに、芯が強い。

まるで自分の意志みたいだ。

「……選ぶよ」

環は言った。

「正解じゃなくても、自分の理を」

🗡️「剣を抜かない夜」

夜明け前。

最も暗い時間が来るはずなのに、闇の質が違った。

恐怖の闇ではない。

静けさの闇だ。

幸村が槍を担ぎ直し、環の横に立つ。

「結局、今日は一回も剣抜かなかったな」

「抜かなかったね」

「でも、負けた感じしねぇ」

「うん」

「むしろ、勝った感じする」

環は小さく頷く。

「戦わない勝ちもある」

天草四郎時貞がこちらへ歩み寄る。

彼女の足取りは静かで、音がしない。

「環」

「なに?」

「この夜は、忘れない方がいい」

「どうして?」

「今夜みたいな夜は、次に来る時――“終わりの形”で来ることがあるから」

環は背筋が少し冷えた。

「終わりって……」

「終わりは、始まりです」

天草は淡々と言う。

「だから怖がらないで。

ただ、“決める”準備だけはしておいてください」

決める準備。

それは、戦の準備より難しい。

🌫️「出立」

焚き火を消す。

跡を残さない。

余計な痕跡を残せば、そこに意味が生まれる。

半兵衛が火の灰を丁寧に整える。

「これで、風が吹いても、火の痕が薄くなる」

「……半兵衛って、こういう時ほんと助かる」

「役目です」

幸村が笑う。

「環、出るぞ」

「うん」

🌫️霧が濃い。

視界は短い。

だが、霧は“守り”でもある。

遠くから狙われない。近くの違和感に気づける。

環は霧の中へ一歩踏み出した。

仲間たちも続く。

戦は、まだ始まらない。

けれど――

理は確実に、次の形を求めて動いている。

環は思う。

“束ねる剣”がまだ無い今だからこそ、

自分は“束ねる意思”で立つしかない。

それは武器ではない。

武器の前にあるもの。

理の骨だ。

🌙第48話・了

⏳時間予告(第49話)

🌊水が境界を洗い、霧が道を隠す。

“進まない時間”の先で、環たちは選択を迫られる。

戦わないまま失うもの。

動かないまま変わってしまうもの。

次回――

「理の薄い場所」

静けさは、優しさではなく試練になる。

🔮クロノス予告

理が歪む時、剣は答えにならない。

進まぬ夜の先で、選ばれるのは“戦”ではなく“決断”。

水が境界を洗い、時は次の形を示すだろう。

⚔️ 戦国ファンタジー 第49話|選別の夜

スポンサーリンク
スポンサーリンク